大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松地方裁判所 平成2年(行ウ)2号 判決

原告

三野勝

右訴訟代理人弁護士

高村文敏

臼井満

被告

観音寺税務署長北川昴

右指定代理人

吉池浩嗣

外五名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告がいずれも昭和六三年七月四日付けでした原告の昭和六〇年分、同六一年分、同六二年分の各所得税の更正のうち、昭和六〇年分については納付すべき税額七万八六〇〇円、同六一年分については納付すべき税額二万三六〇〇円、同六二年分については納付すべき税額一万一七〇〇円を各超える部分及び各過少申告加算税賦課決定(ただし、昭和六〇年分及び同六一年分については、審査裁決により一部取り消された後のもの)をいずれも取り消す。

2  被告が昭和六三年六月三〇日付けでした原告の昭和六〇年分以後の所得税の青色申告承認取消処分を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、和菓子(昭和六二年八月以降はパンを含む)の製造販売業を営み、その所得税につき被告から青色申告の承認を受けていたものである。

2  原告は、被告に対し、昭和六〇年分から同六二年分までの所得税について、いずれもその法定申告期限までに、次のとおり記載して、青色申告書による確定申告をした。

昭和六〇年分

総所得金額 二一二万〇二八九円

納付すべき税額 二万一二〇〇円

昭和六一年分

総所得金額 二三五万〇五二〇円

納付すべき税額 二万〇七〇〇円

昭和六二年分

総所得金額 二〇八万七八一五円

納付すべき税額 一万一七〇〇円

3  被告は、原告に対し、昭和六三年六月三〇日付けで、昭和六〇年分以後の所得税の青色申告の承認を取り消す旨の処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)をした上で、同年七月四日付けで昭和六〇年分から同六二年分までの各年分の所得税につき、次のとおり更正(以下「本件各更正」という。)をした。

昭和六〇年分

総所得金額 三四八万一二六八円

納付すべき税額 一八万八三〇〇円

過少申告加算税額 八〇〇〇円

昭和六一年分

総所得金額 五〇九万六五九七円

納付すべき税額 四〇万八三〇〇円

過少申告加算税額 一万九〇〇〇円

昭和六二年分

総所得金額 四二七万二九六五円

納付すべき税額 二六万三九〇〇円

過少申告加算税額 二万五〇〇〇円

4  原告は、被告に対し、昭和六三年八月一二日、本件各更正、各賦課決定について、それぞれ異議申立てをしたが、被告は、昭和六三年一一月一〇日付けでいずれも右異議申立てを棄却する旨の決定をした。

5  そこで、原告は、国税不服審判所長に対し、昭和六三年一二月五日、審査請求したところ、同所長は、平成元年一二月二五日付けで、次のとおりの裁決をした。

(一) 本件青色申告承認取消処分に対する審査請求を棄却する。

(二) 昭和六二年分の本件更正、賦課決定に対する審査請求を棄却する。

(三) 昭和六〇年、六一年分の本件各更正、各賦課決定のうち、昭和六〇年分については、総所得金額二九八万一〇二二円、納付すべき税額一二万〇六〇〇円、過少申告加算税額四五〇〇円を、昭和六一年分については、総所得金額四〇一万二一九三円、納付すべき税額二二万八九〇〇円、過少申告加算税額一万円を、それぞれ超える部分を取り消し、その余の審査請求をすべて棄却する。

6  しかしながら、本件青色申告承認取消処分並びに本件各更正(ただし、昭和六〇年分については総所得金額二九八万一〇二二円、納付すべき税額一二万〇六〇〇円、昭和六一年分については総所得金額四〇一万二一九三円、納付すべき税額二二万八九〇〇円をそれぞれ超える部分)及び本件各賦課決定(ただし、昭和六〇年分については四五〇〇円、昭和六一年分については一万円をそれぞれ超える部分)は、いずれも違法である。

7  よって、原告は、被告に対し、本件青色申告承認取消処分並びに本件各更正のうち請求の趣旨第一項記載の各金額を超える部分及び本件各決定(ただし、昭和六〇年分及び同六一年分については、審査裁決により一部取り消された後のもの)の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし5の各事実はいずれも認める。

2  同6の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件各処分の前提となった税務調査の経緯

被告の担当係官が、昭和六〇、六一、六二年分の所得税の調査(以下「本件調査」という。)のため、昭和六三年五月一六日以降一〇回にわたって、原告の店舗または居宅に臨場し、青色申告者が、備え付け、取引を記録し、かつ、保存すべきものとされている所得税法一四八条一項に規定する帳簿書類の提示を求めたところ、原告が提示した帳簿書類は、昭和六一年一月以降の現金日報、昭和六〇年分の日計表(昭和六〇年一月から同年一二月までの間の勘定科目別の集計表)及び一部欠落している昭和六二年八月以降のレジペーパー、納品書、請求書、領収書のみであった。

このうち、現金日報には、毎日の現金に関する入出金が、入金については店小売、卸売の別及び和菓子、パンの別に記載され、出金については原材料等の仕入れ代金及びガソリン代金等の経費並びに食費や医療品の代金などの家事関連費について記載されているが、毎日の現金残高が記載されておらず、卸売については売上先が記載されていなかった。また、日計表にも毎日の現金残高が記載されていなかった。納品書、請求書及び領収書は、仕入れ等に関するものであるにもかかわらず、主要な原材料であるあん、もち米、卵の仕入れに関するものは含まれていなかった。

2  本件青色申告承認取消処分の適法性

所得税法一五〇条一項一号は、業務にかかる帳簿書類の備付け、記録又は保存が大蔵省令で定められているところに従って行われていないときは納税地の所轄税務署長はその承認を取り消すことができると規定しており、本件では次のとおり取消事由に該当する。

(一) 所得税法一四八条一項は、青色申告の承認を受けている居住者は、大蔵省令で定めるところにより、同条に規定する業務につき帳簿書類を備え付けてこれに事業所得の金額等にかかる取引を記録し、かつ当該帳簿書類を保存しなければならない旨規定し、同法施行規則(昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一一号)五六条一項は、青色申告の承認を受けている居住者が業務につき備え付ける帳簿書類は、同規則五七条ないし六四条までの定めによらなければならないが、同項ただし書きにより、大蔵大臣の定める簡易な記録の方法及び記載によることができる(以下、「簡易簿記」という。)旨規定している。

原告は、昭和五七年一〇月一五日、被告に対し、所得税の青色申告承認申請書を提出し、そこにおいて、簡易簿記を青色申告のための簿記の方法として選択しているので、同規則五六条一項ただし書きが適用されるところ、同規則五六条一項ただし書きにいう「大蔵大臣の定める簡易な記録の方法及び記載事項」について、昭和四二年八月三一日大蔵省告示第一一二号の三項一号は、同規則五六条一項ただし書きの適用を受ける者は、青色申告書を提出することができる年分の事業所得等の金額が正確に計算できるように、必要な帳簿書類を備え、かつその取引を別表第一各号の表の第二欄に定めるところにより、整然と、かつ明りょうに記録しなければならない旨規定し、別表第一各号の第二欄の定めによれば、「現金出納等に関する事項」については、「現金取引の年月日、事由、出納先及び金額並びに日日の残高」を記載しなければならないとされている。

ところが、原告が被告の担当係官に提示したのは右1に記述した帳簿書類のみであり、しかも提示された日計表、現金日報は、いずれも、日日の残高の記載がないものであるから、所得税法一四八条一項一号にいう帳簿書類とは認められない。

(二) また、青色申告者が、税務職員から質問調査権に基づいて帳簿書類の提示を求められたのに対し、正当な理由なくこれを拒否して提示しなかった場合は、所得税法一四八条一項の帳簿書類の備付け、記録及び保存が行われていない場合に該当し、青色申告承認の取消事由になるところ、原告は、本件調査の際に現金出納帳を提示しなかった。

(三) 仮に、原告が後記五1で主張する現金出納帳兼家計簿(以下「本件現金出納帳」という。)が提示されていたとしても、昭和六〇年分の日計表、昭和六一、六二年分の売上高集計表の各記載、銀行等の預金の入出金と照合した結果、金額の不一致や記入漏れがあり、本件現金出納帳の現金残高と実際の現金残高が一致しておらず、本件現金出納帳は、極めて杜撰で信憑性がなく、所得税法一四八条一項の帳簿書類と言えないばかりか、調査担当官が原告の店舗に臨場した時には作成されておらず、その後に急遽作成された疑いが極めて濃いものであり、「現金出納に関する事項」を記載する帳簿書類としての機能を全く果していないものであるから、所得税法一四八条一項にいう帳簿書類を備え付け、記録し、保存していたとは到底言えない。

3  本件各更正・各賦課決定の適法性

(一) 本件各更正・各賦課決定の根拠

(1) 事業所得金額について

① 売上金額

昭和六〇年分 九七六万三六五七円

昭和六一年分

一〇一三万五二九四円

昭和六二年分

一四六六万九四一八円

右各売上金額は、後記②の和菓子製造販売業の各売上原価の額またはパン販売業の売上原価の額に、後記(三)の類似同業者の平均売上原価率(別表2の1、2)を適用し算出した。

(和菓子製造販売業)

昭和六〇年分

売上原価の額 三六一万七四三五円

売上原価率 37.05

売上金額 九七六万三六五七円

昭和六一年分

売上原価の額 三六六万三九〇九円

売上原価率 36.15

売上金額 一〇一三万五二九四円

昭和六二年分

売上原価の額 三六九万四二三三円

売上原価率 34.67

売上金額 一〇六五万五四一六円

(パン販売業)

昭和六二年分

売上原価の額 二八二万三八五一円

売上原価率 70.35

売上金額 四〇一万四〇〇二円

② 売上原価の額

昭和六〇年分 三六一万七四三五円

昭和六一年分 三六六万三九〇九円

昭和六二年分 六五一万八〇八四円

右売上原価の額は、一般には期首棚卸金額に仕入金額を加算し、期末棚卸金額を控除する方法により算定するが、原告は棚卸しにかかる資料を提示せず、棚卸金額の確認ができないので、原告の事業内容からみて棚卸金額に著しい変動がないと認められることから、期首及び期末の棚卸金額を同額と認め、仕入金額を売上原価の額とした。

原告の本件係争各年分の仕入金額は、別表1の1、2に記載のとおりであり、別表2中の株式会社乳販はグリコと同一事業者である。

③ 算出所得額

昭和六〇年分 四八五万八三九五円

昭和六一年分 五二六万一二三一円

昭和六二年分 六一〇万七二〇五円

右算出所得額は、右①の各売上金額に類似同業者の平均算出所得率(別表3の1、2)を適用して算定した。

(和菓子製造販売業)

昭和六〇年分

売上金額 九七六万三六五七円

算出所得率 49.76パーセント

算出所得額 四八五万八三九五円

昭和六一年分

売上金額 一〇一三万五二九四円

算出所得率 51.91パーセント

算出所得額 五二六万一二三一円

昭和六二年分

売上金額 一〇六五万五四一六円

算出所得率 51.97パーセント

算出所得額 五五三万七六一九円

(パン販売業)

昭和六二年分

売上金額 四〇一万四〇〇二円

算出所得率 14.19パーセント

算出所得額 五六万九五八六円

④ 特別経費の額

昭和六〇年分 四三万三八二九円

昭和六一年分 三三万四五八四円

昭和六二年分 三〇万一四八八円

右特別経費の額は、雇人費及び借入金利子の合計額である。

(雇人費)

大売出し等の際に学生アルバイトを雇用して、支払った金額。

昭和六〇年分 四万七〇〇〇円

昭和六一年分 三万三〇〇〇円

昭和六二年分 一一万七〇〇〇円

(借入金利子)

別表4のとおり、観音寺信用金庫仁尾支店及び国民金融公庫に支払った金額。

昭和六〇年分 三八万六八二九円

昭和六一年分 三〇万一五八四円

昭和六二年分 一八万四四八八円

⑤ 事業専従者控除の額

原告の妻三野和代及び原告の母三野清子にかかるものであり、所得税法五七条三項(昭和六〇年分及び昭和六一年分については、昭和六二年分法律第九号による改正前のもの、昭和六二年分については昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)の規定する事業専従者に該当すると認められ、必要経費とみなされる額。

昭和六〇年分 九〇万円

昭和六一年分 九〇万円

昭和六二年分 一〇五万円

⑥ 事業所得金額

昭和六〇年分 三五二万四五六六円

昭和六一年分 四〇二万六六四七円

昭和六二年分 四七五万五七一七円

右事業所得金額は、③の金額から④及び⑤の金額を差し引いた金額である。

(2) 雑所得金額について

昭和六〇年分 六八五一円

昭和六一年分 一二万八七二九円

昭和六二年分 五万九七二二円

右雑所得金額は、原告が観音寺信用金庫仁尾支店から受け取った定期積金にかかる給付補てん金である。

(3) 総所得金額について

昭和六〇年分 三五三万一四一七円

昭和六一年分 四一五万五三七六円

昭和六二年分 四八一万五四三九円

総所得金額は、(1)⑥の事業所得金額に、(2)の雑所得金額を加算した金額である。

(二) 推計課税の必要性

被告の担当係官の原告に対する本件係争各年分の確定申告にかかる所得金額の計算に必要な帳簿書類の提示要求に対し、原告が提示したのは、1で記述したとおり、昭和六一年一月以降の現金日報、昭和六〇年分の日計表及び一部欠落している昭和六二年八月以降のレジペーパー、納品書、請求書、領収書のみで、現金出納帳等の提示はなく、また、確定申告額を正当とする具体的な説明もなされなかったので、被告は、原告の本件係争各年分の事業所得の金額を実額で算定することはできないと判断した。

(三) 推計課税の合理性

(1) 類似同業者選定基準

被告は、以下の基準に合致する原告と業種、業態、事業規模の類似する事業者(以下「類似同業者」という。)を抽出した。

(和菓子製造販売業について)

ア 原告の納税地を所轄する観音寺税務署及びこれと隣接する丸亀、坂出、伊予三島の各税務署管内において、和菓子製造販売業を営む個人及び法人であること、

ただし、法人にあっては、事業年度の期間が一年で、かつ、各年の九月末日から翌年の三月末日までに事業年度が終了するものであること。

イ 次の期間を通じて事業を継続していること

個人にあっては、昭和六〇年一月一日から昭和六二年一二月末日までの期間、法人にあっては、昭和六〇年九月末日から昭和六一年三月末日までに終了する事業年度の開始の日以後昭和六二年九月末日から昭和六三年三月末日までに終了する事業年度の終了の日に至るまでの期間。

ウ 次の各年分または各事業年度を通じて、青色申告書を提出していること。

個人では、昭和六〇、六一、六二年分、法人では、昭和六〇年九月末日から昭和六一年三月末日までに終了する事業年度、昭和六一年九月末日から昭和六二年三月末日までに終了する事業年度及び昭和六二年九月末日から昭和六三年三月末日までに終了する事業年度。

エ ウの各年分又は各事業年度の売上原価の額が一五〇万円から八〇〇万円までのものであること(被告が確認した原告の本件係争各年分の売上原価の額のおおむね五〇パーセントから二〇〇パーセントの範囲内にあるものに限定した―倍半基準)。

オ ウの各年分又は各事業年度を通じて、不服申立て又は訴訟が係属中でないこと。

(パン販売業について)

ア 原告の納税地を所轄する観音寺税務署及びこれと隣接する丸亀、坂出、伊予三島の各税務署管内において、株式会社タカキベーカリーの製品を主として販売している個人及び法人であること。

ただし、個人にあっては昭和六二年分、法人にあっては、昭和六二年九月末日から昭和六三年三月末日までに事業年度が終了するものであること。

イ 昭和六二年分又は事業年度の売上原価の額が三五〇万円から一三〇〇万円までのものであること(被告が確認した原告の本件係争各年分の売上原価の額のおおむね五〇パーセントから二〇〇パーセントの範囲内にあるものに限定した―倍半基準)。

ウ 和菓子製造販売業のイ、ウ、オと同じ。

ただし、個人にあっては昭和六二年分、法人にあっては、昭和六二年九月末日から昭和六三年三月末日までに事業年度が終了すること。

(2) (1)の基準に合致する類似同業者は、和菓子製造販売業について四業者パン販売業について二業者であり、これらの平均原価率は、別表2の1、2に、平均算出所得率は、別表3の1、2に記載のとおりである。

(四) よって、本件各更正(ただし、昭和六〇年分については総所得金額二九八万一〇二二円、納付すべき税額一二万〇六〇〇円を、昭和六一年分については、総所得金額四〇一万二一九三円、納付すべき税額二二万八九〇〇円をそれぞれ越える部分)は、(一)(3)の総所得金額の範囲内においてなされたものであって、適法であり、本件各賦課決定(ただし、昭和六〇年分及び同六一年分については審査裁決により一部取り消された後のもの)も、右の範囲内でなされたものであるから、適法である。

四  被告の主張に対する原告の認否

1  被告の主張1、2の各事実のうち、原告が被告の主張する書類を提示したことは認める。同2(一)(二)(三)の各主張部分は争う。

2(一)  同3(一)(1)①(売上金額)の各事実は否認する。

同②(売上原価の額)の各事実は否認する。

ただし、被告主張の仕入金額のうち、別表1の1記載の昭和六一年分の横関商店、昭和六二年分の橘屋、近藤物産、横関商店からの仕入金額は認め、その余は否認する。別表1の2のタカキベーカリー、コカコーラからの仕入金額及び株式会社乳販とグリコが同一業者であることは認め、その余は否認する。

同③ないし⑥の各事実は否認する。

(二)  同3(一)(2)、(3)の各事実は否認する。

(三)  同3(二)の主張(推計課税の必要性)は争う。

(四)  同3(三)の主張(推計課税の合理性)について

被告主張の類似同業者の存在及び別表2、3の各1、2に記載の各金額及び計算を否認する。被告は、類似同業者観音寺Aは、香川県三豊郡仁尾町において菓子の製造及び販売をしている業者というが、仁尾町には、菓子を製造し卸売をしている業者は原告のほかは存在しない。

(五)  同3(四)の主張は争う。

五  原告の主張

1  被告の主張1、2について

原告は、本件調査までに本件現金出納帳を、備え付け、記録し、保存しており、本件調査の際、担当係官に、「家計簿と一緒になった帳簿がある」と本件現金出納帳のことを申し出たが、「家計簿は見ても意味がない」と言われたため、これを提示しなかっただけである。

原告の提示した現金日報は不正確な部分もあるが、集計表及び本件現金出納帳はほぼ正確であり、原告は、所得税法一四八条一項にいう帳簿書類を備え付け、記録し、保存しており、本件調査にも協力して、担当係官の要求に応じて、これらの帳簿書類を提示した。

よって、青色申告承認の取消事由はない。

2  被告の主張3(二)(推計課税の必要性)について

前記1のように、原告は本件調査に協力しており、かつ帳簿書類に基づき税額を算定することが可能であったのであるから、推計課税の必要性はない。

3  被告の主張3(三)(推計課税の合理性)について

原告は、和菓子を製造し卸売も小売もするところ、卸売と小売とでは原価率、利益率が異なるにもかかわらず、本件類似同業者選定条件は、卸売だけか、小売だけか、卸・小売共にしているのか、またその割合について全く考慮しておらず、合理性を欠く。

4  所得の実額

原告が、昭和六〇年、六一年分の営業収入と支出を精査した結果、昭和六〇年分の総所得金額は別表5記載のとおり二六九万二八一二円、昭和六一年分の総所得金額は別表6記載のとおり二三八万八八七三円である。

六  原告の主張に対する被告の認否

1  原告の主張1の事実は否認し、主張部分は争う。

原告は、本件調査の際本件現金出納帳の存在について言及すらしなかった。

2  同2ないし4の主張は争う。

七  原告の主張に対する被告の反論

1  推計課税の合理性について(類似同業者選定条件について)

原告は、売上の四割は原告の店舗での小売であり、六割は小売店への卸売である旨主張するが、その証拠は十分でなく、仮に原告の主張どおりであるとしても、原告が卸売と主張する売上形態は、小売店へ商品を卸した時点では代金を徴収するが、売れ残って品質の悪くなった商品はすべて新しい商品と取り替えることとしており、取替えに要する費用は原告の負担であり、売れた商品の個数に応じて新たに補充した分の代金だけを徴収するという特殊な形態であって、原告の取引先である小売店は、商品の仕入れにかかる危険をほとんど負わず、販売手数料の授受はなくとも、委託販売と極めて類似した売上形態であり、一般に言う「卸売」とは性質を異にし、日本産業分類における大分類F(製造業)とは言いがたく、大分類I(卸売・小売業、飲食店)、中分類55(飲食料品小売業)、小分類557(菓子・パン小売業)、細分類5571(菓子小売業(製造小売))に分類されるべきであるから、被告が、類似同業者として、和菓子製造販売業すなわち和菓子の小売業を営むものを選定し、卸売業を選定しなかった本件選定条件は合理的である。

2  実額の主張について

実額の主張をする者は、収入と経費の実額(全額)を明らかにし、その主張の所得額が所得のすべてであることを立証すべきであるところ、原告が根拠とする現金日報、現金出納帳は、正確性、信用性に欠け、原告の主張する実額が真実の所得額と合致することについての立証がなされたとは言えない。

第三  証拠〈省略〉

理由

第一請求原因1ないし5の各事実は、当事者間に争いがない。

第二本件税務調査の経緯について

一本件税務調査の際に、原告が昭和六一年以降の現金日報(〈書証番号略〉)、昭和六〇年分の日計表(〈書証番号略〉、昭和六〇年一月から同年一二月までの勘定科目別集計表)及び一部欠落している昭和六二年八月以降のレジペーパー、納品書、請求書、領収書等を提示したことは、当事者間に争いがない。

二右争いのない事実に証人都築泰清、同宇田和義の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)、〈書証番号略〉、弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

1  被告は、原告の所得税について今まで調査を行ったことがなく、また原告が昭和六二年に不動産を取得したことから、青色申告者としての記帳状況の確認と所得の計算過程を検討する必要があると判断し、都築泰清係官(以下、「都築係官」という。)に、原告の昭和六〇年分ないし六二年分の調査を命じた。

2  都築係官の調査の経緯は次のとおりである。

(一) 都築係官は、昭和六三年五月一六日、初めて原告店舗を訪問し、原告に対し、昭和六〇年分ないし六二年分の記帳状況の確認と所得計算過程の内容を検討したい旨告げ、原告から事業概況(昭和六二年八月に観音寺信用金庫から資金を借り入れて店舗を改造し、株式会社タカキベーカリーの特約店になった旨)及び取引状況(製造小売と卸売をしており、常時取引のある卸売先は二〇店程度である旨)を聞き取ったが、記帳状況については、主に記帳している原告の妻が外出中で確認できなかったため、翌々日の一八日午後二時に再度訪問する旨約束して、この日の調査を終えた。

(二) 都築係官は、翌一七日にも原告方を訪問したが、妻が配達で不在のため、記帳状況の確認はできなかった。翌一八日午後三時に訪ねる旨約束した。

(三) 一八日に、都築係官は、原告の店舗を訪問したが、原告及びその妻以外に、三豊民主商工会(以下、「民商」という。)の事務局長ら原告の事業に関係の無い者が数名同席したため、退席を求めたが、拒否され、やむなく、守秘義務に触れない程度の調査を行った。この日、都築係官が、原告が提出している青色申告承認申請書に表示されている現金出納帳、経費帳、固定資産台帳や売上帳、仕入帳の提示を求めたところ、原告は、これらの帳簿は作成していないと答えたが、現金出納帳に代わるものであると告げて五月一六日から一八日までの現金日報(黄色いラベル台紙に記載されたメモ)三枚を提示した。

提示された現金日報は、入金については、店の売上、卸売の金額、預金の引出額、出金については、仕入経費の支払先、品名、金額、預金の預入額、家事関連費の支出、入金と出金の差額について記載されていたが、卸売の相手先、現金の残高の記載がなかった。

(四) 都築係官は、約束していた同月五月二六日午後二時に原告方を訪問したところ、原告と妻のほか、民商の関係者四名が同席していたので、退席を求めたが、拒否されたため、原告が用意していた仕入れにかかる請求書、納品書、領収書等を書き取り、昭和六〇年分の日計表と昭和六一、六二年分の売上高集計表、昭和六一、六二年分の仕入経費集計表、昭和六二年八月一〇日から一二月末までのレジペーパー、観音寺信用金庫仁尾支店と百十四銀行仁尾支店の原告名義の通帳を預って帰った。原告から昭和六二年の二、三か月分の現金日報の提示もあったが、これだけでは意味がないので、内容を見ただけで、預からなかった。提示のあった請求書や領収書等の中には原告の事業にとって必要なあん、もち米、卵の仕入れにかかるものはなかった。また、レジペーパーは連番になっていないもの(〈書証番号略〉)や、同じ日付が二枚あるものがあった。

(五) 都築係官は、同年六月八日及び一〇日にも原告方において調査を実施した。一〇日には、民商の関係者二名が同席している場で、レジペーパーの疑問点(連番になっていないものがあったり、同日付のものがあったりすること)や売上等について質問し、是正事項(期首の棚卸高と前年の期末の棚卸高との不一致、減価償却費の計算間違い、仕入金額の過大計上、青色の事業専従者給与の支給事実が帳簿上確認できないこと)を伝達した。

(六) 都築係官は、一七日にも原告方を訪問し、民商の関係者二名の同席の場で、レジペーパーの疑問点を確認するとともに、新たに提示された仕入にかかる領収証を検討した後、是正事項を再度伝達した。仕入れについては、北川製餡所のあんの仕入れやもち米、卵の仕入れについて領収書がまったくないないことが判明した。また、都築係官の伝達した是正事項に対し、原告は、棚卸しの点、減価償却費と仕入金額の誤りについては認めたが、専従者給与の是正については認めなかった。

(七) 都築係官は、二一日と二二日にも原告方を訪問し、是正事項について説明したが、原告は、専従者給与の是正には応じられない旨の返答をした。二二日に、原告は、家計簿のような現金出納帳(本件現金出納帳)があると言ったが、都築係官の提示要求に対しては、今は見せないと述べた。都築係官は、是正した申告書を検討してもらうため、置いて帰った。

(八) 都築係官は、二三日、原告方を訪問し、民商の関係者同席の場で、修正申告をしてほしい旨説得したが、原告は拒否した。このとき原告は、本件現金出納帳は都築係官には見せない旨言った。

(九) 都築係官は、二七日、原告方を訪問し、再度本件現金出納帳や経費の計算明細書の提示を要求したが、原告がこれを拒否したため、原告の所得の推計計算を原告に説明した。

3  都築係官は、原告の提示した書類だけでは、原告の所得を把握することができなかったので、同年五月下旬から六月上旬にかけて、原告の取引銀行の調査及び仕入先の北川製餡所の反面調査を実施した。右反面調査において、北川製餡所の帳簿に記載されているが原告の仕入明細に記載されていなかったり、原告の仕入明細に記載されているが北川製餡所の帳簿に記載されていなかったりするものがあることが判明した。

4  原告は、同年六月二五日ころ、観音寺税務署を訪れたが、このときも担当の統括国税調査官の宇田和義(以下、「宇田調査官」という。)に対し、家計簿兼現金出納帳(本件現金出納帳)があるが見せられない旨言った。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問(第一回)における供述部分及び〈書証番号略〉は採用しない。

第三本件青色申告承認取消処分について

一原告は、昭和五七年一〇月一五日に被告に提出した所得税の青色申告承認申請書において、簡易簿記方式を選択している青色申告の承認を受けた者であった(〈書証番号略〉)ところ、所得税法一四八条一項は、青色申告の承認を受けている者は、大蔵省令で定めるところにより、同条に規定する業務につき帳簿書類を備え付けてこれに事業所得の金額等にかかる取引を記録し、かつ当該帳簿書類を保存しなければならない旨規定し、同法施行規則五六条一項ただし書きにより、簡易簿記を選択した者は、昭和四二年八月三一日大蔵省告示第一一二号(〈書証番号略〉)三項一号により、青色申告書を提出することができる年分の事業所得の金額等が正確に計算できるように、必要な帳簿書類を備え、かつその取引を別表第一各号の表の第二欄に定めるところにより、整然と、かつ明りょうに記録しなければならず、別表第一各号の表の第二欄の定めによれば、「現金出納に関する事項」については、「現金取引の年月日、事由、出納先及び金額並びに日日の残高」を記載しなければならないとされている。日日の残高を記載しなければならないと規定している趣旨は、当該帳簿上の残高と実際の現金残高とを突き合わせ、記載漏れや誤記を発見訂正することにより、正確性を担保しようとするものであるから、日日の残高の記載を省略することは許されないと解されるところ、本件調査において原告が提示した帳簿書類が昭和六一年一月以降の現金日報(〈書証番号略〉)、昭和六〇年分の日計表(〈書証番号略〉)及び昭和六二年八月以降のレジペーパー、請求書、納品書、領収書等のみであったことは前記のとおりであり、前掲証人都築泰清の証言、〈書証番号略〉によれば、現金日報は、毎日の現金に関する入出金を、入金については、原告店舗における売上、委託先における売上の別、和菓子、パンの別に記載され、出金については、原材料等の仕入代金やガソリン代金等の経費、食費や医療品の代金などの家事関連費について記載されているが、卸売の相手先、日日の現金残高が記載されておらず、日計表も、日日の残高が記載されていなかったこと、領収書及び納品書等には、原告の事業にとって重要な原材料であるあん、もち米、卵の仕入れに関するものが含まれていなかったことが認められる。

この事実によれば、原告が提示した右書類は、所得税法一四八条一項が備え付け、記録し、保存すべきものと規定する帳簿書類と認めることはできない。

二また、本件調査において、原告は、前後一〇回程度にわたって原告方を訪問して帳簿書類等の提示を要求した都築係官に対し、本件現金出納帳の存在に言及しながら提示を拒否し、観音寺税務署における宇田調査官に対しても本件現金出納帳の提示を拒否したことは前記第二で認定したとおりであり、この状況においては、原告が本件調査において正当な理由がないのに帳簿書類の提示を拒否したため、被告は、所得税法一四八条一項所定の帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われているか確認できなかったということができる。そして、このような場合も、同法一五〇条一項一号が定める青色申告承認の取消事由に該当すると解するのが相当である。なぜなら、青色申告制度は、納税義務者が自己の記録、保存している正確な帳簿書類を基礎として納税申告を行うことを奨励することにより、申告納税制度が適正に機能することを目的とする制度であるから、納税義務者の帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われているとともに、その点を税務当局が的確に把握できるということが、その制度の当然の前提になっているといえるところ、青色申告の承認を受けている納税義務者が正当な理由がないのに当該帳簿書類を税務当局に提示することを拒否したような場合は、たとえ客観的には当該納税義務者の帳簿書類の備付け、記録又は保存が正しく行われていたとしても、税務当局が確認できない以上、やはり青色申告制度の前提自体が欠けることになるものといわざるを得ないからである。

三なお、〈書証番号略〉、弁論の全趣旨によれば、本件現金出納帳(〈書証番号略〉)は、原告の妻が各年度毎にいわゆる大学ノートに記載したものであるが、本件現金出納帳の右記載は、その売上のうち原告店舗での売上の大半につきレジペーパーその他の明細内容の裏付けを欠くほか、現金残高の記載がない現金日報の記載を移記した(ただし専従者給与の記載を除く。)もので、その売上及び経費にかかる記載の数値が各実額と合致する正確性の担保がないほか、昭和六〇年分の日計表(〈書証番号略〉)や、昭和六一、六二年分の売上高集計表(〈書証番号略〉)の記載を対照すると、金額が一致していない個所や記載漏れが存在することが認められ、これらの事由からして、右記載の不備は、重大であり、現金出納に関する事項を記載する帳簿書類としての正確性を到底担保できないから本件現金出納帳が各年末ころまでに作成されていたとしても、所得税法一四八条一項所定の帳簿書類を備え付け、記録し、保存していたということはできない。

四以上によると、所得税法一五〇条一項一号所定の取消し事由があるというべきであるから、本件青色申告承認取消処分は適法である。

第四本件各更正、各賦課決定について

一推計課税の必要性について

本件調査において原告の提示した帳簿書類では、前記第二で認定したとおり、原告の所得金額を正確に算定することができないから、被告において原告の所得金額を推計により算出する必要性があったというべきである。

二類似同業者の選定について

1  原告の業態等について

原告本人尋問の結果(第一、二回)、証人宮武輝夫及び前掲証人都築泰清の各証言、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 原告は、父親の代の昭和二三年ころから和菓子を製造し、販売していて、その事業を同五七年八月に継承したが、右販売形態としては、原告の店舗における販売と、原告の常時の取引先の店舗における販売及び特別の注文による販売(後の二つを原告は卸売と主張している)という三つの形態があり、その取引先は当時約六〇店程度であり、売上は、原告の店舗での販売が約四割、その他の販売が約六割であり、販売先の店のある地域は地元の仁尾町のほか、観音寺市、三豊郡詫間町・高瀬町・大野原町・豊浜町・三野町であった。

(二) 原告の取引先の店舗における販売とは、商品を取引先に持参したときに代金を現金で徴収するが、二、三日置きに取引先を回り、売れないで古くなった商品を原告の負担において取り替え、売れた分は補充し、補充した商品の代金だけまた徴収するというものであり、卸売というよりは、いわゆる委託販売の形態に類似していると言える。

(三) 原告は、昭和六二年八月に株式会社タカキベーカリーの特約店になり、和菓子のほかにパンを原告の店舗で販売するようになった。

また、そのころ店にレジを設置した。

(四) 原告の事業には原告のほか、原告と同居している妻及び原告の母が従事し、商品の製造及び店舗での販売は主に原告とその母が担当し、取引先への商品配達と集金等は主に妻が行っていた。

2  類似同業者選定経過について

〈書証番号略〉、前掲証人宮武輝夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができ、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 高松国税局長は、平成二年六月一四日付けで、丸亀、観音寺、坂出、伊予三島の各税務署長に対し、被告の主張3(三)(1)に記載の各条件(以下単に「アの条件」等という。)に合致する同業者の有無について照会し、本件条件に合致する類似同業者について、和菓子製造販売業の同業者については、丸亀税務署管内で二業者、観音寺税務署及び伊予三島税務署管内で各一業者の合計四業者、パン販売業の同業者については、坂出税務署及び伊予三島税務署管内で各一業者の合計二業者の類似同業者を抽出した。

(二) 抽出された類似同業者の原価率及び平均原価率は、別表2の1、2に、算出所得率及び平均算出所得率は、別表3の1、2に記載のとおりである。

3  類似同業者選定条件の合理性について

(一) 高松国税局長が和菓子製造販売業者と株式会社タカキベーカリーの製品を主として販売している業者とを区別して類似同業者の資料を集めた趣旨は、前掲証人宮武輝夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、業種、業態の異なる事業について区別して資料を収集することにより、正確性の担保を図るためであると認められるから、右手法は合理的であるということができる。

(二) 和菓子製造販売業及びパン販売業の各選定条件について

(1) アの条件について

前掲証人宮武輝夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、観音寺税務署管内に原告の類似同業者の数が少なく、観音寺以外の地域から類似同業者を抽出する必要があるが、原告の事業と地理的条件の類似性を担保するために、アの条件に記載された地域から類似同業者を抽出したことは、合理的であると認めることができる。

また、原告は、和菓子の販売について、小売と卸売の両方をしており、これらを区別しないで類似同業者を選定することは合理性がない旨主張するが、原告の和菓子の販売形態は、前記1で認定したとおり卸売というよりも、委託販売に似たものであるから、日本産業分類における大分類Ⅰ(卸売・小売、飲食店)、中分類55(飲食料品小売業)、小分類557(菓子・パン小売業)、細分類5571(菓子小売業(製造小売))に該当するということができるのであり、被告が、和菓子の製造小売業すなわち製造販売業をしている業者から類似同業者を抽出したことは合理的であると認めることができる。なお、原告は、香川県三豊郡仁尾町には和菓子を製造し卸売をする業者は原告だけであるから、類似同業者観音寺Aは存在しない旨主張するが、被告は、和菓子の製造小売業を営んでいる業者の中から類似同業者を抽出したのであるから、原告の右の主張はそれ自体失当である。

(2) その他の各条件について

前掲証人宮武輝夫の証言及び弁論の全趣旨によれば、和菓子製造販売業のイの条件(パン販売業のウの条件)は、原告の事業期間と類似同業者の事業期間の類似性を担保するための条件として、和菓子製造販売業のウの条件(パン販売業も同じ)は、内容の正確性を担保するための条件として、和菓子製造販売業のエの条件(パン販売業のイの条件)は、売上原価の額がおおむね原告の売上原価の額の五〇パーセントから二〇〇パーセントの範囲の事業者に限定(倍半基準)し、事業規模の類似性を担保するための条件として、和菓子製造販売業のオの条件(パン販売業のウの条件)は、所得金額が確定しているものを選定するための条件として、いずれも合理的であると認めることができる。

4 以上より、類似同業者の選定条件は合理的なものであり、またこの条件に合致する類似同業者の数値を用いて推計することにも合理性があると認めることができる。

三原告の所得金額について

1  事業所得金額について

(一) 売上原価の額

(1) 弁論の全趣旨によれば、原告の事業内容(ただしパン販売を除く)は、主に原材料を仕入れて製品を製造し、販売するものであり、原材料である食品を長期に保存することが考えられず、期首と期末の棚卸金額に著しい変動がないと認められることから、期首及び期末の棚卸金額を同額とし、原告の売上原価の額は、仕入金額と同額とするのが相当である。

(2) 原告の仕入金額について

(和菓子製造販売業について)

① 昭和六一年分の株式会社横関商店からの仕入金額、昭和六二年分の株式会社橘屋、近藤物産、株式会社横関商店からの仕入金額については当事者間に争いがない。

② 株式会社紀州屋からの昭和六〇年分ないし六二年分の仕入金額は、〈書証番号略〉により、別表1の1の株式会社紀州屋の欄に記載のとおり認めることができる。

③ 株式会社吉良清商店からの昭和六〇年分ないし六二年分の仕入金額は、〈書証番号略〉により、別表1の1の株式会社吉良清商店の欄に記載のとおり認めることができる。

④ 株式会社豊国製粉所及び松屋食品工業株式会社からの昭和六〇年分ないし六二年分の仕入金額は、〈書証番号略〉により、別表1の1の株式会社豊国製粉所及び松屋食品工業株式会社の欄に記載のとおり認めることができる。

⑤ 株式会社砂絵堂からの昭和六二年分の仕入金額は、〈書証番号略〉により、別表1の1の株式会社砂絵堂の欄に記載のとおり認めることができる。

⑥ 株式会社北川製餡所からの昭和六〇年分ないし六二年分の仕入金額は、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨により、別表1の1の株式会社北川製餡所の欄に記載のとおり認めることができる。

⑦ 原米穀店及び有限会社浪越養鶏及びその他の昭和六一年及び六二年分の各仕入金額は、〈書証番号略〉により、別表1の1の原米穀店及び有限会社浪越養鶏及びその他の欄に記載のとおり認めることができる。

また、右両業者及びその他の欄関係からの昭和六〇年分の仕入金額は、〈書証番号略〉の集計表において金額が明らかでなく、弁論の全趣旨によれば、原米穀店及び有限会社浪越養鶏における反面調査によっても記帳が不備であったため仕入金額を把握することができなかったことが認められ、昭和六一年分六二年分の仕入金額の合計額を二で除した推計金額(別表1の1の原米穀店及び有限会社浪越養鶏及びその他の昭和六〇年の欄に記載のとおりの金額)を各仕入金額とすることは合理的である。

(パン販売業について)

① 株式会社タカキベーカリー及び四国コカコーラボトリング株式会社からの昭和六二年分の仕入金額については、当事者間に争いがない。

② 株式会社乳販からの昭和六二年分の仕入金額については、株式会社乳販とグリコが同一事業者であることは当事者間に争いがないところ、〈書証番号略〉により、別表1の2の株式会社乳販の欄に記載のとおり仕入金額を認めることができる。

③ ハムからの昭和六二年分の仕入金額については、〈書証番号略〉により、別表1の2のハムの欄に記載のとおり認めることができる。

以上により、原告の昭和六〇年分ないし六二年分の仕入金額の合計額は、別表1の1、2の合計欄に記載のとおりである。

(3) 売上原価額

よって、売上価額は、(2)の仕入金額と同額であり、和菓子製造販売業とパン販売業の売上原価額の合計額は次のとおりである。

昭和六〇年分 三六一万七四三五円

昭和六一年分 三六六万三九〇九円

昭和六二年分 六五一万八〇八四円

(二) 売上金額

売上金額は、右和菓子製造販売業の各売上原価の額またはパン販売業の売上原価の額に、前記二2(二)で認定した類似同業者の平均売上原価率(別表2の1、2)を適用して算出した次の金額である。

昭和六〇年分

九七六万三六五七円

昭和六一年分

一〇一三万五二九四円

昭和六二年分

一四六六万九四一八円

(和菓子製造販売業)

昭和六〇年分

売上原価の額 三六一万七四三五円

売上原価率 37.05

売上金額 九七六万三六五七円

昭和六一年分

売上原価の額 三六六万三九〇九円

売上原価率 36.15

売上金額 一〇一三万五二九四円

昭和六二年分

売上原価の額 三六九万四二三三円

売上原価率 34.67

売上金額 一〇六五万五四一六円

(パン販売業)

昭和六二年分

売上原価の額 二八二万三八五一円

売上原価率 70.35

売上金額 四〇一万四〇〇二円

(三) 算出所得額

算出所得額は、右和菓子製造販売業の各売上金額またはパン販売業の売上金額に前記二2で認定した類似同業者の平均算出所得率(別表3の1、2)を適用して算定した次の金額である。

昭和六〇年分 四八五万八三九五円

昭和六一年分 五二六万一二三一円

昭和六二年分 六一〇万七二〇五円

(和菓子製造販売業)

昭和六〇年分

売上金額 九七六万三六五七円

算出所得率 49.76パーセント

算出所得額 四八五万八三九五円

昭和六一年分

売上金額 一〇一三万五二九四円

算出所得率 51.91パーセント

算出所得額 五二六万一二三一円

昭和六二年分

売上金額 一〇六五万五四一六円

算出所得率 51.97パーセント

算出所得額 五五三万七六一九円

(パン販売業)

昭和六二年分

売上金額 四〇一万四〇〇二円

算出所得率 14.19パーセント

算出所得額 五六万九五八六円

(四) 特別経費の額

特別経費の額は、次の雇人費及び借入金利子の合計額である。

昭和六〇年分 四三万三八二九円

昭和六一年分 三三万四五八四円

昭和六二年分 三〇万一四八八円

(雇人費)

〈書証番号略〉、弁論の全趣旨によれば、大売出し等の際に原告が学生アルバイトを雇用して、次の金額を支払ったことが認められる。

昭和六〇年分 四万七〇〇〇円

昭和六一年分 三万三〇〇〇円

昭和六二年分 一一万七〇〇〇円

(借入金利子)

原告本人尋問の結果(第二回)、〈書証番号略〉及び弁論の全趣旨によれば、別表4の支払金額欄に記載のとおり、観音寺信用金庫仁尾支店及び国民金融公庫に借入金の利子を支払い、そのうち原告の事業用の経費と認められる金額は、別表4の必要経費算入額欄記載のとおり認めることができ、その合計額は、次のとおりである(この認定事実に反する原告本人尋問の結果中の供述部分は採用しない)。

昭和六〇年分 三八万六八二九円

昭和六一年分 三〇万一五八四円

昭和六二年分 一八万四四八八円

(五) 事業専従者控除の額

原告の妻三野和代及び原告の母三野清子は原告と生計を一にし、その事業に専ら従事していることは前記二1で認定のとおりであり、所得税法五七条三項(昭和六〇年分及び昭和六一年分については、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの、昭和六二年分については昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)の規定する事業専従者に該当すると認められるから、次の金額が必要経費とみなされる。

昭和六〇年分 九〇万円

昭和六一年分 九〇万円

昭和六二年分 一〇五万円

(六) 事業所得金額

事業所得金額は、(三)の算出所得額から(四)の特別経費の額及び(五)の事業専従者控除の額を差し引いた次の金額である。

昭和六〇年分 三五二万四五六六円

昭和六一年分 四〇二万六六四七円

昭和六二年分 四七五万五七一七円

2  雑所得金額

〈書証番号略〉、弁論の全趣旨によれば、原告は、観音寺信用金庫仁尾支店から定期積金にかかる次の金額の給付補てん金を受け取ったことが認められる。

昭和六〇年分 六八五一円

昭和六一年分 一二万八七二九円

昭和六二年分 五万九七二二円

3  総所得金額

総所得金額は、1(六)の事業所得金額に、2の雑所得金額を加算した次の金額である。

昭和六〇年分 三五三万一四一七円

昭和六一年分 四一五万五三七六円

昭和六二年分 四八一万五四三九円

四以上によれば、本件各更正(ただし、昭和六〇年分については総所得金額二九八万一〇二二円、納付すべき税額一二万〇六〇〇円を、昭和六一年分については総所得金額四〇一万二一九三円、納付すべき税額二二万八九〇〇円をそれぞれ超える部分)は、三の総所得金額の範囲内においてなされたもので適法であり、これを前提としてなされた本件各賦課決定(ただし、昭和六〇年分及び同六一年分については審査裁決により一部取り消された後のもの。)も、右の範囲内でなされたものであるから、適法である。

第五原告の実額の主張について

〈書証番号略〉によると、昭和六〇年、六一年分の各売上及び売上原価と経費の数値は別表5、6記載のとおりであるという旨の記載と供述がある。しかし、右両年度の売上原価と経費の数値が実額と合致することは全証拠を検討しても認めるに足りないし、また両年度の各売上のうち原告店舗の売上等についても、正確性の担保を欠く現金日報と本件現金出納帳(〈書証番号略〉)に基づき算出されたものであるから、それらの数値が実額と合致すると認めることはできない。

したがって、右売上と必要経費の数値が実額と同じと認められることを前提として、被告の推計課税の違法をいう原告の主張は、採用することができない。

第六よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官滝口功 裁判官和食俊朗 裁判官濱谷由紀)

別表

1の1 和菓子製造販売業に係る仕入金額明細表

年分

昭和60年分

昭和61年分

昭和62年分

仕入先

(株)紀州屋

475,290

540,430

666,571

(株)吉良清商店

612,800

665,705

704,485

(株)豊国製粉所

108,950

104,750

78,710

松屋食品工業(株)

588,705

416,115

289,730

(株)橘屋

191,295

近藤物産

4,700

(株)砂絵堂

4,000

(株)横関商店

50,175

42,100

58,250

(有)北川製餡所

735,870

826,590

673,420

原米穀店

787,400

823,800

751,000

(有)浪越養鶏

229,845

229,130

230,560

その他

28,400

15,289

41,512

合計

3,617,435

3,663,909

3,694,233

別表

1の2 パン販売業に係る仕入金額明細表

年分

昭和62年分

仕入先

(株)タカキベーカリー

2,634,511

四国コカコーラボトリング(株)

67,280

(株)乳販

80,955

ハム

41,105

合   計

2,823,851

別表

2の1 和菓子製造販売業に係る類似同業者の売上原価率表

年分

昭和60年分

昭和61年分

昭和62年分

区分

売上金額

売上原価

売上

原価率

(②÷①)

売上金額

売上原価

売上

原価率

(④÷③)

売上金額

売上原価

売上

原価率

(⑥÷⑤)

税務

署名

同業者

観音寺

A

8,314,830

2,875,262

34.58

9,378,067

3,228,477

34.43

9,299,630

3,247,702

34.92

丸亀

A

8,712,455

3,469,705

39.82

8,428,533

3,232,782

38.36

7,443,083

2,571,655

34.55

丸亀

B

19,923,505

6,920,746

34.74

20,228,450

6,403,993

31.66

19,948,255

6,269,583

31.43

伊予

三島

A

17,948,536

7,008,118

39.05

18,740,007

7,519,784

40.13

15,264,032

5,764,796

37.77

平均

37.05

36.15

34.67

別表

2の2 パン販売業に係る類似同業者の売上原価率表

年分

昭和62年分

区分

売上金額

売上原価

売上原価率

(②÷①)

税務署名

同業者

坂出

A

18,473,952

12,751,706

69.03

伊予三島

B

7,291,054

5,225,441

71.67

平  均

70.35

別表

3の1 和菓子製造販売業に係る類似同業者の算出所得率表

年分

昭和60年分

昭和61年分

昭和62年分

区分

売上金額

算出

所得金額

算出

所得率

(②÷①)

売上金額

算出

所得金額

算出

所得率

(④÷③)

売上金額

算出

所得金額

算出

所得率

(⑥÷⑤)

税務

署名

同業者

観音寺

A

8,314,830

3,527,577

42.42

9,378,067

4,190,332

44.68

9,299,630

4,326,690

46.52

丸亀

A

8,712,455

4,320,600

49.59

8,428,533

4,352,074

51.63

7,443,083

4,010,790

53.88

丸亀

B

19,923,505

10,869,231

54.55

20,228,450

12,220,453

60.41

19,948,255

11,650,506

58.40

伊予

三島

A

17,948,536

9,419,779

52.48

18,740,007

9,546,534

50.94

15,264,032

7,494,482

49.09

平均

49.76

51.91

51.97

別表

3の2 パン販売業に係る類似同業者の算出所得率表

年分

昭和62年分

区分

売上金額

算出

所得金額

算出

所得率

(②÷①)

税務署名

同業者

坂出

A

18,473,932

2,412,767

13.06

伊予三島

B

7,291,054

1,117,709

15.32

平  均

14.19

別表4ないし6〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例